注目ベンチャー紹介:Pow.Bio
2025
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10
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06

Written by Ryo Takei
今回の注目ベンチャーの紹介はPow.Bioです。
Pow.Bioは、AI制御と連続発酵(continuous fermentation)を組み合わせることで、従来型バッチ発酵方式の制約を解消し、生物由来素材・精密発酵製品のコスト削減とスケールアップを実現するバイオテックスタートアップです。米国を拠点とし、より効率的で持続可能なバイオ製造インフラ構築を目指しています。
Pow.Bio
サービス/プロダクト概要
- 連続発酵プラットフォーム:Pow.Bioのコア技術は、成長フェーズと生産フェーズを分離した二重タンク構成(dual-chamber)による連続発酵システム。成長タンクでは細胞(微生物)を最適密度まで増殖させ、生産タンクで目的物質を生産。生成物は連続的に回収・精製され、廃棄物や細胞のリサイクルも自動制御される。
- AI統合制御ソフトウェア(SOFe):発酵条件(温度、pH、栄養素流量など)をリアルタイムでモニタリングし、最適化するソフトウェアを装備。これにより、遺伝子変異(ドリフト)抑制や汚染耐性を改善しつつ、高い生産性を維持する。
- 実証・デモプラント:カリフォルニア州アラメダに25,000平方フィート(約2,300平方メートル)のデモ工場を開設、グラム規模の実験から数百キロスケールの原料生産への移行モデルを顧客に提供中。さらにこの新施設は、食品・飲料業界に供給する顧客向けに、発酵生産と下流工程(スプレードライ、フリーズドライなど)を行えるクリーンルームを備え、米国食品医薬品局(FDA)への登録も完了させている。

特徴・提供価値
- コスト効率・生産性向上:同社は連続発酵を用いることで、生産性がバッチ方式比で2~5倍に改善するという実績を報告している。これにより、原価を30~70%削減することが可能。
- 汚染耐性と遺伝子ドリフト抑制:成長フェーズ(第一段階:小型バイオリアクター)と生産フェーズ(第二段階:大型バイオリアクター)を分離し、生産フェーズでは細胞が増殖できない状態に制御することで、変異や汚染(コンタミネーション)が生産を中断させるリスクを抑制。
- AIを活用したプロセス制御:同社のAI対応システムは、プロセス条件をリアルタイムで継続的に監視および調整し、パフォーマンスを最適化、一貫性があり再現可能な結果をスケールに依存せず確保する。
- 既存設備への適応性:同社のシステムは、バッチ式設備を持つ製造拠点への改修導入を念頭に設計されており、ゼロから巨大なプラントを建設するよりも低コストで改修・改造し展開が可能。

ビジネスモデル
- Fermentation as a Service(サービスとしての発酵):顧客企業が原材料や微生物株、製品仕様をもってPow.Bioと連携し、実験・最適化・少量生産を受託する。顧客は初期投資負荷を抑えつつ市場テストが可能。
- 技術ライセンスおよび導入支援:顧客が十分なスケールを目指す局面では、同社の連続発酵技術をライセンス提供、あるいは共同事業化による収益化。
- スケールアップ時のロイヤリティ・サービス収益:顧客が技術を導入して拡大・量産フェーズに至った場合、製品売上や製造出力量に応じたロイヤリティや収益分配契約を取り入れる。また継続的な保守・サービス収益を見込む。
なぜ今この会社なのか
- 精密発酵ベースの代替タンパク質や機能性素材が次世代食品・化成品市場で注目を浴びており、製造コスト削減が普及の鍵となっている。しかし、既存のバッチ式発酵は、立ち上げ/停止の手間、廃液・洗浄コスト、資源ロス、遺伝子変異リスクなど構造的なボトルネックが存在しており、プロセス革新が求められている。同社の連続発酵プラットフォームは、AI制御、リアルタイム最適化、二重タンク設計などが組み合わさり、かつて困難だった長時間安定稼働型連続プロセスを実現、製造コストの削減を可能する。
顧客・競合・パートナー
- 顧客:精密発酵スタートアップ(タンパク質、酵素、機能性分子など)、食品・代替タンパク質メーカー、バイオ材料メーカー
- 競合:米スタートアップ Biosphere(蒸気滅菌に比べて迅速化・低コスト化が可能なUV滅菌バイオリアクター)、米スタートアップ Liberation Bioindustries(精密発酵プラットフォーマー)
- パートナー:蜂を使わない蜂蜜を開発するMeliBio社(2025年5月 スイス企業が買収)と生産拡大に向けた提携、カカオ細胞を利用した持続可能なチョコレートを開発するCalifornia Cultured(明治が出資)とスケールアップやコスト最適化に向けた提携
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