注目ベンチャー紹介:Eion
2025
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07
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Written by Ryo Takei
今回の注目ベンチャーの紹介はでEionです。
Eionは、風化促進(Enhanced Weathering)技術を活用して二酸化炭素を恒久的に除去する米国の気候テックスタートアップです。農業と鉱物科学を組み合わせたアプローチにより、炭素除去と土壌改良を同時に実現するソリューションを提供します。
Eion
サービス/プロダクト概要
- Eionは、粉砕した超塩基性鉱物(主にカンラン石)を農地に散布し、風化作用によるCO2の鉱物化反応を加速させることで、土壌中に重炭酸塩として炭素を封じ込めます。同社は、農家に対し農業用石灰の代替として鉱物を供給し、その活動によって生成される炭素除去(CDR)クレジットを販売する形でビジネスを展開しています。

特徴・提供価値
- 炭素除去の仕組みと科学的優位性:CO2と速やかに反応するカンラン石という鉱物を農地に散布することで、大気中のCO2を重炭酸塩(HCO₃⁻)に変換し、炭素を永久隔離する。カンラン石は他の岩石に比べて風化速度が速く、除去効果が短期間で発現するため、科学的にも高効率な風化促進岩石とされている。また、同社はカンラン石散布から6〜9ヶ月後には、40〜70%の鉱物が溶解しCO₂を除去したことを、実測データをもとに確認している。
- 農業と炭素除去の両立:カンラン石は農業用石灰の代替品として供給され、土壌pHの中和やミネラル(特にマグネシウム)供給によって作物の生育環境を改善し、農業生産性の向上にも貢献する。また、同社のCDRクレジット収益により、価格を補助された形で農家に供給されるため、実質的なコスト負担が軽減される。とくに酸性土壌の地域では強いニーズがある。
- 高いMRV(計測・報告・検証)信頼性:散布前後の土壌サンプリングと分析を行い、鉱物の溶解量・残留微量元素・CO₂除去量を定量的に検証している。具体的には、根に近い上層土から下層土へのマグネシウム流入を示すアルカリ度のフラックス(単位面積・時間あたりの通過量)を定量化することで、除去された炭素量を測定する。特許取得済みのこのMRVフレームワークは、USDA(米国農務省)や学術研究機関とも連携し、ISO準拠の手法に基づく高信頼なCDRクレジットとして第三者機関の認証を得ている。
- パートナー主導型のスケーラブル展開:自社スタッフによる運用に依存せず、カンラン石の調達を担う鉱山会社や既存の農業ディストリビューターと提携。地域の作物アドバイザーや農学者のネットワークを活用し、農場ごとの土壌条件や農業ニーズに即した散布設計を行う。これにより、既存の農業サプライチェーンに統合された形で分散的かつ効率的に拡張が可能となっている。

ビジネスモデル
- Eionは、粉砕したカンラン石を農家に対して農業用石灰の代替品として販売する。この鉱物は、同社のパートナーであるSIBELCO社によって採掘されたもので、販売価格は農業用石灰と同等かそれ以下に設定されており、ここで小幅な収益を得ている。実際の供給はGROWMARKやSouthern Agなどの農業ディストリビューターを通じて行われる。
- 一方、同社の主な収益源は、岩石風化によって除去されたCO2に基づく炭素除去(CDR)クレジットの販売。これらのクレジットは、ISO準拠の方法論に基づく高いMRV(計測・報告・検証)信頼性を備えており、Stripeをはじめとする企業によって先行購入されている。さらに同社はオンラインマーケットプレイスを通じて、クレジットを公開レジストリにリスト化し、より広範な企業顧客への販売も行っている。
- 炭素クレジットの価格は、1トンあたり100〜500ドル程度とされており、これは約1,000ドルのコストがかかるDAC(直接空気回収)と比較して競争力がある価格帯となっている。近年、企業のCDRクレジット調達に対する社会的監視が強まっている中で、MRVの堅牢性やトレーサビリティを重視するバイヤーからの関心が高まっている。
なぜ今この会社なのか
- 気候変動対策として注目される「CO2除去(CDR)」市場は加速度的な成長が予測されており、中でもコスト効率が高く、既存の農地や遊休地などを利用でき、MRV信頼性の高い方法が求められている。
- 風化促進(Enhanced Weathering)技術は、自然由来で恒久的な炭素隔離が可能な点が特長であり、そのスケーラビリティと科学的裏付けから、近年注目が集まっている。(2025/6/12 注目領域レポート:XPRIZE Carbon Removal 参照)
- Eionはその中でも米国内で鉱山・農業・科学をつなぐギガトン規模の炭素除去基盤の構築を進めており、すでにクレジット販売実績もある、数少ない先行企業の一つとなっている。
顧客・競合・パートナー
- 顧客:Microsoft、stripe・shopify(先行市場コミットメントのFrontier)など、先進的なカーボンクレジット購入企業
- 競合:Lithos Carbon(米国)、UNDO(英国)、Terradot(米国)、Mati Carbon(米国/インド)など、Enhanced Weathering分野のスタートアップ
- パートナー:農業小売大手GROWMARK(米国第3位、米国中部大西洋岸地域の顧客が主な対象)、鉱物供給業者SIBELCO(ベルギー本拠地の大手工業用鉱物サプライヤー)、IsometricやPuroなどの研究機関(MRV検証・精度向上)など
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