注目ベンチャー紹介:Databento
2025
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Written by Yuhei Yano
今回の注目ベンチャーの紹介はDatabentoです。
同社は、金融市場データ(株式・先物・オプションなど)のリアルタイムおよびヒストリカルデータを、API経由でオンデマンド提供するアメリカ発のデータインフラ企業です。
Databento
サービス/プロダクト概要
- 金融機関やトレーディング企業が市場データを取得するには、Bloomberg、Refinitiv、ICE Dataなどと高額な長期契約を締結する必要があった。
- Databentoはこの旧来の構造を破壊し、「使った分だけ支払う(pay-as-you-go)」モデルで、開発者やクオンツ、スタートアップが手軽に取引所直結データを利用できる環境を提供カメラ搭載ドローンやフォークリフト、固定カメラ、ウェアラブルデバイスなどを活用し、倉庫内の「棚」「パレット」「ケース」などの状態をAIで自動的に認識。
- 2019年設立。CME Group、NASDAQなど主要取引所と直接接続し、コロケーション(取引所近接サーバ)からデータを取得している点が大きな特徴

特徴/提供価値
1.コロケーションによる超高精度データ
- Databentoは取引所のマッチングエンジンと同一データセンター内にサーバを設置し、ハードウェア(FPGA)によるナノ秒単位のタイムスタンピングを行っている
- これにより、取引所からのデータを数マイクロ秒以下の遅延でキャプチャし、高頻度取引(HFT)やクオンツ分析でも利用可能なエンドツーエンド品質を実現している
- Bloomberg等のソフトウェアタイムスタンプ方式と比較すると、同等のデータ品質ながら粒度(granularity)と精度(precision)で優位にある
2.開発者ファーストなAPI設計
- Databentoの最大の強みは、ドキュメンテーションとAPI体験の完成度。
- Python・C++・Rust対応のSDK、WebSocket/HTTP API、CLIツールが整備されており、わずか数行のコードでリアルタイム市場データを取得可能
- 同社は「営業チームを持たず、ドキュメントが営業そのもの」と語っており、開発者がDocsを読む→試す→課金する、というPLG(Product-led Growth)モデルを徹底している
3.垂直統合されたEnd to Endなアーキテクチャ
- データ取得から配信、API提供までをすべて自社内で制御。
- Vertical Integration(垂直統合)によって、データの遅延・欠損・順序ズレを最小化している
- この「ソース(取引所)→コロケーション→正規化→API→ユーザー」のエンドツーエンド構造が、Bloomberg等の多層的中継構造と決定的に異なる点
ビジネスモデル
従量課金(pay-as-you-go)+セルフサーブ モデルを採用。
- ユーザーはポータルから自分でAPIキーを発行し、必要なデータセット(例:NASDAQ Trades, CME Futuresなど)を選択
- データの範囲(銘柄・日付・粒度)に応じて課金額が即時に表示され、クレジットカード決済または請求書で購入可能
- ライセンス契約や営業担当を介する必要がない
この構造により、スタートアップや小規模ヘッジファンドでも利用可能に。
また、APIの統一スキーマ設計により、バックテストからリアルタイム運用まで同一コードで実装可能という開発効率の高さが評価されている。
市場動向・なぜこの会社なのか?
1.金融市場データソフトウェア業界の構造的課題
- 世界の金融データ市場は2025年に約500億ドル規模へ成長すると予測されているが依然として、
- 高価格・長期契約
- 取引所とのライセンス構造の複雑さ
- 開発者が扱いにくいクローズドAPI
2.“Plaid of Market Data” という立ち位置
- Plaidが銀行データをAPI化したように、Databentoは取引所データを標準化・API化することで、「市場データのインフラレイヤー」を狙っている。
- 開発者はDatabentoのスキーマを通じて、NASDAQでもCMEでも同じ形式でデータを取得可能
- 「マーケットデータの共通言語をつくる」**という点で、業界構造そのものを再定義しようとしている
顧客・競合・パートナー
- 顧客:
- Architect:トレーディングインフラ企業。Databento APIを生産環境に導入。
- Double River:機械学習を活用するアルゴリズム取引企業。
- Fenrir:プロプライエタリトレーディングファーム。
- UC Berkeley MFEプログラム:教育・研究用途で採用。
特にエンジニアが自分でAPIを選定・実装できる企業に強い。
- パートナー:
- 取引所パートナー:CME Group, NASDAQ, OPRAなど主要市場とライセンス契約。
- 技術パートナー:AWS / GCP などクラウド事業者。
- データ提携:Corporate Actions / Reference Data / US Equities統合など。
- 競合:
- Bloomberg:データ網の広さ・信頼性で圧倒的優位。ただし高価格・契約制。
- Refinitiv / ICE Data / S&P Global:包括的データ供給網。
- Polygon.io / IEX Cloud:低価格API型の直接競合。
- 取引所直販(NASDAQ Cloud Data, CME SmartStream):技術的に近いが、使い勝手でDatabento優位。